東京高等裁判所 昭和42年(ネ)300号 判決
訴外前田正は戦前本件土地の借地人亡野中友三郎から地上建物の一部を賃借して居住していたが、右建物は戦災により焼失したこと、前田は昭和二一年八月一日頃土地所有者石原延郎を代理する訴外鈴木為吉から直接本件土地を賃借して地上に建物を新築し、昭和二二年六月二八日その保存登記がなされ、次いで同年一一月二七日被控訴人鑓溝が右建物を譲り受けて即日その登記を経由するとともに鈴木の承諾の下に借地権の譲渡を受けたことは、引用にかかる原判決の理由で述べられているとおりである。ところで、控訴人が野中から譲り受けたとされる借地権は、旧戦時罹災土地物件令第三条により休眠状態におかれるとともに、同第六条により対抗要件なくして当該土地につき権利を取得した第三者、すなわち本件においては新たに借地権を取得した訴外前田に対し対抗することができ、これは野中からその借地権を譲り受けたとされる控訴人においても譲受借地権を前田に対し主張することができるわけであるが、同令は昭和二一年九月一五日に廃止されている。そしてこれに代わり同日施行された罹災都市借地借家臨時処理法第一〇条によると、罹災当時から引き続き借地権を有する者は対抗要件なくして昭和二一年七月一日から五箇年以内にその土地について権利を取得した第三者に対抗することができるとされているから、同年八月一日頃に借地権の設定を受けた前田は右の第三者に該当するが、しかし野中の借地権を譲り受けたとされる控訴人は罹災当時から引き続き借地権を有する者に当らないから、同人は右法律に基づいては譲受借地権をもつて前田に対抗することは許されない。そこで問題は控訴人が旧戦時罹災土地物件令に基づきその譲受借地権をもつて被控訴人鑓溝に対抗することができるかどうかにあるが、控訴人が同令廃止後に本件土地につき権利を取得した第三者に対し対抗要件なくして対抗することができないことは明らかであるところ、その第三者には土地所有者から直接権利を取得した者だけでなく、その土地の他の借地権を土地所有者の承諾の下に譲り受けた者をも含むと解するのを相当とするから、同令廃止後の昭和二二年一一月二七日前田から本件借地権を譲り受けた被控訴人鑓溝に対する関係においては、控訴人は自らの譲受借地権をもつて同人に対抗することはできないものというべきである。そして被控訴人鑓溝はその取得した借地権につき対抗要件を具備していること前記のとおりであるから、その後さらに本件土地の所有権を取得するにいたつた控訴人に対しては、同被控訴人は右借地権をもつてこれに対抗することができるといわざるをえない。そうだとすれば、控訴人がその主張のように野中の借地権を譲り受けた事実があつたとしても、また仮りに前田が自ら借地権の設定を受ける際に従前の借地権者たる野中または控訴人からその借地権の放棄ないし了解をうることはなかつたとしても、これらのことはいずれも右の結論になんらの影響を及ぼすものでないことは明らかなところである。
(青木 高津 弓削)